Poetry,story
それはある雪の日のことでした。
カインが家へ帰るまでの道を歩いていると、曲がり角に樹が生えているのですが、その樹にもたれて男の子が立っていました。
カインはその男の子に気づいて言いました。
「君、君はなにをしているんだい」
男の子は答えました。
「僕、僕はなにをしているんだろう・・あ、そうだ」
男の子はカインにはっきりと言いました。
「僕は君を待っていたんだ」
「なんだって、僕は君なんか知らないよ」
カインは驚きました。樹の上に立っていた男の子はカインよりも幼く、髪の毛もカインと違って金色でしたが、男の子はカインを待っていたと言うのですから。
「あれ、僕は君を待っていたんじゃないのか」
「わけがわからないや、まあ、いいや。僕はカインだ。そんなとこで突っ立ってたら風邪をひくから、家においでよ」
「いいよ」
男の子はそう言ってカインの家に入って行きました。
カインは男の子にあたたかいミルクを淹れました。
「どうぞ」
「わあ、ありがとう」
カインは、男の子とテーブルの席について聞きました。
「君はどこから来たんだい」
「僕は、あそこにいたんだよ」
「あそこってどこだい」
「君とさっき会った樹だよ」
「なんだって、冗談はよしてくれよ、僕はよくこの道を通るけど、君になんか会ったことないや」
「嘘じゃないよ、僕はあの樹なんだから」
「弱ったなあ、変な子を連れてきちゃったよ」
カインは困りましたが、男の子はミルクを美味しそうに飲んでいたので、そういうことはどうでもよくなりました。
「美味しいかい」
「うん、美味しいよ」
「そっか、よかった」
「ねえ、カインはどこに行くの」
「どこって、今日はもうどこにも行かないよ」
「違うよ。僕と違って、カインは歳を取って、消えちゃうんだから」
「何を言ってんだよ、そんなのまだまだ先の話だろ」
「そうかもしれないけど、そうなってからだともう後戻りできないんだよ」
「止めてくれよ、僕は生きていると言うのに、君は失礼じゃないか」
「怒らないでよ、僕はあそこにずっといるけど、君達はあんまり早くいなくなっちまうから、皆どこに行くか知ってるのかと思ったんだよ」
「そんなもん、知らないよ。君があんまりに早いと思っているようだけど、僕なんか早くこの雪が解けないかなと思っているのにまだ雪は止んでくれないんだから」
「だから、君はゆっくりだっていうの」
「そうだよ、君達の時間で測らないでおくれよ」
「それはおかしいよ、君達こそ君達の時間で測りすぎて、まるで僕達に触れ合おうとしないじゃないか」
「いや、それはね、誰かが決めたことでそれに従っているけど、できることなら、僕だって、君達と一緒にいたいんだよ」
「そうなの、僕達と一緒にいたいって言うの」
「当たり前じゃないか、誰が好き好んで忙しなくしようとするんだい」
「本当に、本当にかい」
「くどいなあ、誓ってもいいよ」
「うわあい、やったあ」
男の子は両手を挙げて、カインの部屋を走り回りました。
「ん、なんだっていうんだ」
「ねえ、今のこと忘れちゃあだめだよ。そうしないとならないことがあるかもしれないけど、君に伝える為に僕はいたんだから」
「そうだね、わかったよ」
「うん、じゃあね」
そう言って、男の子はカインの家を出て走って行ってしまいました。
カインはその夜、男の子が樹だと言っていたことがなんだか本当の事のように思えてきました。それは、カインに対して男の子の言葉があまりに正直で、カインにぶつかりあったからでありまして、日ごろ、カインは男の子のような小さい子供と話すことはないのですが、もし話すにしても、男の子の言動はあまりに今までカインが知っている人とは少しずれがあると思ったからなのでした。
それはある雪の日のことでした。
カインが家へ帰るまでの道を歩いていると、曲がり角に樹が生えているのですが、その樹にもたれて男の子が立っていました。
カインはその男の子に気づいて言いました。
「君、君はなにをしているんだい」
男の子は答えました。
「僕、僕はなにをしているんだろう・・あ、そうだ」
男の子はカインにはっきりと言いました。
「僕は君を待っていたんだ」
「なんだって、僕は君なんか知らないよ」
カインは驚きました。樹の上に立っていた男の子はカインよりも幼く、髪の毛もカインと違って金色でしたが、男の子はカインを待っていたと言うのですから。
「あれ、僕は君を待っていたんじゃないのか」
「わけがわからないや、まあ、いいや。僕はカインだ。そんなとこで突っ立ってたら風邪をひくから、家においでよ」
「いいよ」
男の子はそう言ってカインの家に入って行きました。
カインは男の子にあたたかいミルクを淹れました。
「どうぞ」
「わあ、ありがとう」
カインは、男の子とテーブルの席について聞きました。
「君はどこから来たんだい」
「僕は、あそこにいたんだよ」
「あそこってどこだい」
「君とさっき会った樹だよ」
「なんだって、冗談はよしてくれよ、僕はよくこの道を通るけど、君になんか会ったことないや」
「嘘じゃないよ、僕はあの樹なんだから」
「弱ったなあ、変な子を連れてきちゃったよ」
カインは困りましたが、男の子はミルクを美味しそうに飲んでいたので、そういうことはどうでもよくなりました。
「美味しいかい」
「うん、美味しいよ」
「そっか、よかった」
「ねえ、カインはどこに行くの」
「どこって、今日はもうどこにも行かないよ」
「違うよ。僕と違って、カインは歳を取って、消えちゃうんだから」
「何を言ってんだよ、そんなのまだまだ先の話だろ」
「そうかもしれないけど、そうなってからだともう後戻りできないんだよ」
「止めてくれよ、僕は生きていると言うのに、君は失礼じゃないか」
「怒らないでよ、僕はあそこにずっといるけど、君達はあんまり早くいなくなっちまうから、皆どこに行くか知ってるのかと思ったんだよ」
「そんなもん、知らないよ。君があんまりに早いと思っているようだけど、僕なんか早くこの雪が解けないかなと思っているのにまだ雪は止んでくれないんだから」
「だから、君はゆっくりだっていうの」
「そうだよ、君達の時間で測らないでおくれよ」
「それはおかしいよ、君達こそ君達の時間で測りすぎて、まるで僕達に触れ合おうとしないじゃないか」
「いや、それはね、誰かが決めたことでそれに従っているけど、できることなら、僕だって、君達と一緒にいたいんだよ」
「そうなの、僕達と一緒にいたいって言うの」
「当たり前じゃないか、誰が好き好んで忙しなくしようとするんだい」
「本当に、本当にかい」
「くどいなあ、誓ってもいいよ」
「うわあい、やったあ」
男の子は両手を挙げて、カインの部屋を走り回りました。
「ん、なんだっていうんだ」
「ねえ、今のこと忘れちゃあだめだよ。そうしないとならないことがあるかもしれないけど、君に伝える為に僕はいたんだから」
「そうだね、わかったよ」
「うん、じゃあね」
そう言って、男の子はカインの家を出て走って行ってしまいました。
カインはその夜、男の子が樹だと言っていたことがなんだか本当の事のように思えてきました。それは、カインに対して男の子の言葉があまりに正直で、カインにぶつかりあったからでありまして、日ごろ、カインは男の子のような小さい子供と話すことはないのですが、もし話すにしても、男の子の言動はあまりに今までカインが知っている人とは少しずれがあると思ったからなのでした。